24時間で家一軒を3D 印刷

オースティンに拠点を置くスタートアップ企業が、世界的なホームレス問題に取り組むための、野心的なソリューションを考案した。そのアイデアは、単なる慈善活動を超えて、ずっと広い範囲に影響を及ぼすことになるかもしれない。ICONはこれまで、3D印刷を利用して家を建てることに、真剣に取り組んできた。そして来年早々にも、エルサルバドルでそんな家が姿を現し始めることになりそうだ。
今年のSXSWイベントで展示された同社の手法は、Vulcanのプリンターを使って、60平方メートルの平屋建ての家を建てるというものだ。材料は、その頑丈さからセメントが選ばれた。建築開始から終了までの全行程にかかる時間は、わずか12~24時間で、コストは107万円ほどしかかからない。
しかし同社は、1軒あたりのコストをさらに下げ、43万円程度にする方法を探っている。疑いもなくこのアイデアは、単に慈善団体などのホームレス問題への取り組み方に革命をもたらすだけではなく、建築業界全体の姿を変化させる可能性さえ持っている。もちろん、家だけに留まっている理由はないだろう。技術の進歩に伴い、映画やカジノゲーム、あるいはレストランさえ含む、あらゆる種類の質の高い娯楽のために、3D印刷の建物が使われ始めることになるかもしれない。
試験のための最初のモデル
一見したところ卓越したアイデアだが、ICONはまだその実用性を試験する必要がある。だが、実現はそう遠くないようだ。同社のジェーソン・バラード共同創業者は、イベントでのスピーチで、最初のモデルが同社でオフィスとして使われる予定であると述べた。
バラード氏によれば、試験工程の一部には、建物内の空気の質や建物の外観のテストも含まれるという。この共同創業者は、最新のテクノロジーを支援するのと同じくらい、自然を意識した生活に対しても情熱を持っている。同氏は他にも、環境に優しい持続可能な方法で住居などの建物を修繕・改修する、「ツリーハウス」という名前の会社を持っている。
**3D **印刷された家の外観
3D印刷される家は当初、約60平方メートルの大きさだが、同社は家のサイズを、74平方メートルほどまで大きくすることができると主張する。この数字は、ニューヨーク市の典型的な集合住宅の広さに、わずか6平方メートル及ばないだけであり、それを考えると、かなり印象的なことと言える。
ICONの作る最初のモデルは、居間の他に、バスルームや寝室も備える予定だ。屋外での生活のために、曲線的にデザインされたポーチさえ付いている。
エルサルバドルでの試験計画
同社のユニークな3D印刷の家のエルサルバドルでの試験は、住宅供給慈善団体「New Story」を通じて実施される。米国サンフランシスコを拠点とするこの慈善団体は、貧困にあえぐエルサルバドルで3年をかけて適切な構造の家を建て、仮に建てられた掘っ立て小屋のような家と置き換えてきた。同国では国民の3分の1が、ホームレス状態にあると報告されている。
おそらく、ICONの先駆的な3D印刷建築手法よりも驚きなのは、New Storyと同社との提携関係が、まだ1年にも満たないということだ。New Storyにとってこの関係構築は遅すぎたと言え、8ヶ月でたった100軒のペースでしか建築が進んでおらず、コストは1軒あたりだいたい64万円に留まる。
もしエルサルバドルでの試験で、ICONのアイデアが実行可能なものであると証明されれば、その低コストで素早く建築できる家は、ボリビアやハイチ、メキシコなど、ホームレスの多さに悩む他の国でも採用され始めるだろう。同社のVulcanプリンターは、最初の試験工程が完了し、設計にICONが必要な修正を加え次第、エルサルバドルに移送される予定だ。
利益より人を優先
まず初めに3D印刷の家を、さまざまな国のホームレスのために活用しようとする同社の意向は、このアイデアと最初のプロジェクトが、利益よりも人を優先していることを明確に示す。これは、通常とは正反対のシナリオだ。大抵の場合、イノベーションを最初に利用できるのは、それを手にする余裕のある人たちだけである。今回の場合、金持ちが利用できるようになるのは、ある程度の数のホームレスたちが家を手に入れるのを待ってからとなる。
New Storyの創業者であるアレクサンドリア・ラフシ氏は、技術的なイノベーションは無数の方法でより大きな善を利することができると、自身の信念を語った。ICONの画期的な仕事に対する支援について説明しながら彼女は、より大きなアフリカ市場において、モバイル技術の普及が変化のための力として広く使われてきたが、このプロジェクトはその道筋に沿っていると付け加えた。
しかし、3D印刷の家の提供を恵まれない人々に限定する当面の計画を超えて、3D 印刷は家を建てる際の一般的な方法となり、世界中のあらゆる建築分野に大変革をもたらすことになるだろうと、ラフシ氏は続けた。